松平 頼重 (まつだいら よりしげ)
父: 水戸初代藩主徳川頼房
母: 家臣谷重則女の久子(久昌院)
弟: 徳川光圀(水戸2代藩主)
生誕: 元和8年7月1日(1622年8月7日) 場所: 故あって江戸の三木之次邸で誕生
没年: 元禄8年4月12日(1695年5月24日) 享年: 74歳

頼房の長男。高松初代藩主(
Note 1)。
頼房は久子が頼重を懐妊したとき、兄である尾張初代藩主徳川義直と紀伊初代藩主徳川頼宣にまだ子ができていないことを憚り、水に流すように命じた。しかし、久子は頼房の養母英勝院の計らいで頼重を産み育て、頼重は後に京都の天龍寺へ送られて養育される。
頼重が頼房の長男であるにもかかわらず、寛永10年(1633)11月に水戸2代藩主は3代将軍徳川家光の命で3男(2男は既に夭逝)の光圀に決定した。
経緯は、つぎのとおり。
世嗣決定に臨んで英勝院は頼重を京都から呼び戻し、先ず頼重を家光に御目見させようとしたが頼重の天然痘が恢復せず、側室天理院が自らの子を世嗣にすべく動いた。そこで附家老の中山信吉が水戸へ下って頼房の子を吟味し、頼重の弟の光圀を指名して英勝院を救った。ところが長幼の序の観点から、このことが光圀英勝院の重荷になって行く。
英勝院は、「着座の順位が水戸より上になることは諦めるとして、水戸藩の28万石を越える大身の藩を頼重に与えることで光圀とのバランスをとりたい」と考えて家光に願い、頼重は先ず寛永16年(1639)7月に常陸下舘5万石の藩主となる。
英勝院は重ねて訴え、寛永19年(1642)2月28日、讃岐高松12万石の初代藩主と決定し、同年5月に頼重は高松に赴いた。
ところが、英勝院が「加増してくれたのはありがたい。しかし讃岐はとても遠く、危険な船旅を要する島國だと聞く。もっと江戸に近い國にして欲しい。でも、すぐには無理だろうから近いうちによろしく。」と再び要請したので、「頼重は江戸に近い30万石程度の國へ加増転封となるだろう」との噂が江戸に流れた。
しかし、同年8月23日に英勝院が寂したことで噂は立ち消えとなり、翌24日、英勝院は鎌倉へ移送され、自身が開いた英勝寺へ埋葬される。英勝院は前年寛永18年(1641)の秋頃から体調を崩して病がちになっていたので、そんな状況下での訴えに家光は真剣に対処していたことだろう。
頼重は、我が命の恩人であるばかりでなく行く末までも案じてくれる英勝院に、深い恩義を感じていた。英勝院の訃報を知ったのが、5月に高松藩主としての政務を開始して僅か3ヶ月後だったため、すぐに駆けつけることができない頼重は月命日に高松で供養を重ね、翌寛永20年(1643)6月に鎌倉を訪問。同年8月16日、英勝寺山門を建立し、8月23日の英勝院一周忌法要を父頼房、弟光圀と共に営む。このとき、頼重はすぐに駆けつけられなかった後悔と悲しみを詠った追善歌を奉納した。
英勝院は生前に勅額を希望しており、幕府はそれを叶えるべく執奏、後水尾上皇の宸翰(
Note 2)「英勝寺」の扁額が山門に掲げられた。裏書きは寛永20年(1643)4月10日となっている。(別に寛永21年(1644)8月の裏書きを持つ「英勝寺」の扁額も現存するため山門建立寛永21年説あり)。
高松初代藩主として頼重は善政を敷き、城下町の拡張と整備に努めた。井戸を掘り、溜池を築き、敷設した上水道は本格的な設備を有する日本で最初のものと言われる。

一方、将軍家光の命令とはいえ頼重を差し置いて水戸2代藩主となった弟の光圀は、儒学の「長幼の序(孟子)」に従い寛文4年(1664)に長男頼常を頼重の世嗣として高松へ送り、寛文11年(1671)に頼重の男綱條を養子に迎えたうえで元祿3年(1690)に63歳で致仕して綱條を水戸3代藩主とすることによって、水戸藩と高松藩の藩主交換を実現した。連枝となった高松・水戸両藩は、殊の外親密な交流を続ける。

Note 1: 讃岐一國17万3千石を領した生駒氏(Note 3)は、御家騒動(生駒騒動)を幕府から罰せられ寛永17年(1640)に出羽矢嶋藩1万石へ減知転封処分となりました。そのため近隣3藩の預領となっていた東讃岐へ寛永19年(1642)5月に頼重が入り、新たな高松藩12万石が成立しました。
Note 2: [語句説明] 広辞苑によれば、つぎのとおりです。
宸翰(しんかん) = 天子の直筆(じきひつ)の文書。宸筆。
Note 3: 生駒氏には、我が太田氏親戚の三宅氏も永く仕えています。新生高松藩が水戸藩と連枝になったことから三宅盛明の弟八三郎富盛が水戸藩に出仕、その孫娘のきむが太田九蔵藏吉(私の高祖父)に入籍して私の高祖母となりました。きむと、その実家三宅氏は、太田氏の存続に極めて重要な存在です。

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