回り込み対策
★本報告は無線機の変調回路への回り込み対策です。ディジタル通信でPCへ回り込んだ事例はこちら
★この下の能書きは後でお読みいただくとしまして、先ず、ずっと下の写真を番号順にご覧ください。

アイコム IC-7300にて18MHzのSSBで、且つ出力100WでON AIRすると変調回路への回り込みが発生しました。対策を実施して解決できましたので報告させていただきます。
出力を20W程度まで絞れば問題なし。7MHzなら100Wでも問題なし。IC-7300に付属のハンドマイク(ダイナミックマイク)なら問題なし。という状態でした。
マイク関係の構成(『回り込みの概念図』参照)は、アドニスのスタンドマイク(コンデンサマイク) AM-308 を、同じアドニスのマイク切換器 AK-8S で IC-7300 と八重洲 FT-991A に切り換えています。FT-991AはVHF/UHF専用にしていますので、回り込みの有無を検証しておりません。
結果的に、不具合が発生したのはスタンドマイク内の『マイクアンプ』と、IC-7300内の『マイクアンプ部』でした。IC-7300の入力回路はTDKのチップビーズやパスコンで入念に回り込み対策(対策周波数帯が高めのようですが)がなされておりますので、アイコムの想定を越える強烈な高周波がマイクケーブルに乗っているようです。

IC-7300のマイク入力部と比較すると、アドニスのスタンドマイクとマイク切換器は回り込みに対してパスコン1個だけという、ほぼ完璧な無防備状態です。それを目の当たりにしたとき、投げ出したくなりました(投げ出した人もいます)。しかし、私はアドニスの音が好きですので何とかして使えるようにしたいと思いました。
無線機に使うマイクであり、マイク切換器なのですから、GND(Ground)に接続された金属ケースに収まり、マイクケーブルはマイク信号のシールド線を含む最外周にシールドが施されているとばかり思っていました。実際はプラスチックケースでシールドなし。大きな金属部がフローティング状態、マイク切換器の鉄製ケースもスライドスイッチもフローティング状態、マイクケーブルは、1本のシールド線(マイク信号)のほかは普通のビニール線が束ねられているだけです。最外周にシールドはありません。したがって、
PTT、UP/DOWN、電源ほか、すべての線に高周波が乗ります。スタンドマイクの電源を無線機から取らず内蔵の乾電池にすると回り込みが解決する場合は、電源ラインに高周波が乗ってスタンドマイク内のマイクアンプに逆流(Note 1)していると思われます。そこで、全ての線に対策を行ないました。例えばこちらのように。
当然ながら回り込み対策には
フェライトビーズが極めて有効で、これがなければ解決に手こずったと思います(Note 2)。

18MHz用ダイポールは給電部のバランが7mH(Height)、両端が5mHの逆Vで、18MHz帯全域で反射波が検出できない状態まで追い込んであります。したがってVSWRが悪いことによるコモンモード電流の回り込みではなく、アンテナから放射された電波をマイク系統が受けて発生した障害です。18MHz用ダイポールの一端からリグまで約10mしか離れていないことが18MHzのみで発生する原因になったようです。7MHz用ダイポールは、もっと高い位置にあるためか、問題は発生しておりません。
なお、IC-7300を載せているラックはスチール製で、地中に埋めた保安目的のアースに接続しています。IC-7300とFT-991Aの筐体も同様です。接続線が長くてリアクタンスが大きいため、高周波的には無意味なアースです。無線用には木製ラックの方がベターという話を聞きますが、下記対策により解決できましたので結果的にはスチールラックを介した回り込みも退治できたということです。

症状と対策
第一段階

症状: スタンドマイクを使うと18MHz帯のみ回り込みが発生。
マイクに手を近付けると回り込みの様子が変化する。スタンドマイク内のマイクアンプへ高周波が回り込んでいるもよう。
対策: マイクアンプの入力側からはもちろん、出力側、すなわちマイクケーブル側からも高周波が浸入できないように対策を実施(下記【対策 】)。
その結果、スタンドマイクをIC-7300のみで使う、すなわちマイク切換器を使わない場合は解決。

第二段階

症状: マイク切換器を接続すると回り込みが再発。
GNDに接続したアルミ箔でマイク全体を覆っても全く効果なし。これは、スタンドマイク内のマイクアンプは既に防護されていることを意味すると理解。
切換器を使わない場合のマイクケーブル長(1本1.2m)の総計が、切換器をつなぐと2倍(FT-991Aへのケーブルも含めれば3倍)になるためマイクケーブルで拾った高周波がIC-7300のマイクアンプへ回り込んでいると推測。
対策: マイク切換器内部の処置(下記【対策 】)と、マイクケーブルの全ての8ピンコネクタ内部でマイクラインを切断しフェライトビーズFB101-43にΦ0.1mmのポリウレタン線(UEW)15回巻のチョークを挿入してコネクタのハウジングに内蔵(下記【対策 】)したところ全て解決。

Note 1: このコーナーでは、マイクケーブルに乗った高周波がマイクの音声信号と逆方向へ進むイメージを「逆流」と称しております。高周波にとっては順方向も逆方向もありませんので違和感を持たれる方がいらっしゃると思いますが、イメージの表現ですのでご容赦下さい。
Note 2: フェライトビーズは、大きなFB801-43と、小さなFB101-43が活躍してくれました。FB101-43は8ピンのマイクコネクタに内蔵させることができてFBです。しかしFB101-43は一度通過させるだけでは得られる抵抗成分が低いので、できるだけ多く巻くために細いΦ0.1mmのポリウレタン線(UEW)を使いました。FB101-43では15回巻けます。ポリウレタン線(UEW)は被覆の耐熱温度が120℃のため、ハンダゴテで熱すると被覆が剥離しますのでハンダ付けをし易いです。普通のエナメル線では紙やすりで擦らなければならず、切れてしまうことがあります。
TDKのチップビーズはFB101-43よりずっと小型ですのでマイクコネクタへ内蔵させるのが楽だと思います。ただ、チップ部品は簡単に端子がもげてしまいますので取扱いが難しそうです。430MHz用LNA(Low Noise Amplifier)ではチップコンを重ねて(パラにして)機械的強度を増しましたが、チップビーズを重ねたのでは、せっかくの抵抗成分が半減してしまいます。
回り込みの概念図 回り込みの概念図
マイクケーブルなど電線に高周波が乗ると、どちらの方向へも進みますので両方向への対策を要します。
第一段階: マイクアンプへの回り込み対策
化粧パネルのアルミ板をGNDに接続 化粧パネルのアルミ板をGNDに接続
アルミ板がGNDから浮いた状態ですから、まるでアンテナ状態。
コンデンサーマイクのエレメントが収納されているヘッドと、その信号線が通過しているフレキシブルパイプも浮いていますが、GNDへの接続が難しいため接地処置は断念。
鉄製の底板をGNDに接続 鉄製の底板をGNDに接続
こんなに広い面積の金属板がGNDから浮いていてはまずいでしょ。この鉄板もアンテナ状態。
スタンドマイク内部の様子 スタンドマイク内部の様子
対策の詳細は下記。
マイクアンプ入力部 マイクアンプ入力部
コンデンサーマイクからのシールド線をトロイダルコアに巻いたうえで、芯線を切断しFB101-43にΦ0.1mmポリウレタン線(UEW)15回巻のチョークを挿入。このシールド線が通過しているフレキシブルパイプのGNDへの接続が難しくGNDへの接続を先送りしたため、万一、高周波が乗っていてもここでマイクアンプへの侵入を阻止。
マイクアンプ出力部 マイクアンプ出力部
マイク出力のシールド線芯線を切断し、FB-101-43にΦ0.1mmポリウレタン線(UEW)15回巻を挿入。マイクケーブルから逆流してきた高周波をカット。
コネクタのリード線にフェライトビーズを挿入 コネクタのリード線にフェライトビーズを挿入
マイクケーブルに乗って逆流してきた高周波のマイクアンプへの浸入を阻止。同時にマイクケーブルへの高周波送出も阻止。
以上でスタンドマイク単体の回り込み問題は解決
第二段階: IC-7300への回り込み対策
マイク切換器に於ける対策 マイク切換器に於ける対策
マイク切換器の鉄ケースもGNDから浮いていてアンテナ状態。
IC-7300へ高周波を送り出さぬように対策。マイクラインへのフィルタとチョークの挿入とともにケースをGNDに接続。これで背面のコネクタハウジング3個がGNDに接続された。その後、鉄製のフタもGNDに接続。
マイクコネクタのハウジングにフェライトビーズを内蔵 マイクコネクタのハウジングにフェライトビーズを内蔵
マイクラインに乗ってきた高周波をこのフェライトビーズと、IC-7300内部に既に存在するチップビーズとパスコンとでカット。合計5個の8ピンマイクコネクタのマイク信号ラインにフェライトビーズを挿入し、コネクタのハウジングに内蔵。
以上で回り込み問題すべて解決
外部リンク: JARL(一般社団法人 日本アマチュア無線連盟)  JA1YJY 横浜鶴見クラブ  QRZ.com(JA1POP)  QRZCQ.com(JA1POP)  総務省電波利用ホームページ>…>無線局等情報検索「アマチュア局」JA1POP 固定局JA1POP 移動局

戻る  トップページ>『特集』>『HAM RADIO』>『回り込み対策』・『無線設備/RADIO EQUIPMENT
Copyright © 2002- Sam Ohta/JA1POP All Rights Reserved.